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函館家庭裁判所 昭和43年(家)379号 審判 1968年10月08日

申立人 小沢トシ(仮名)

主文

本件申立は、これを却下する。

理由

本件申立の要旨は、申立人は父小沢五十次、母ツネの長女であるが、父母の離婚に伴い、申立人の氏「小沢」を母の氏「村田」に変更することによつて母方の家名を存続させるため、その変更の許可を求めると言うものであつて、申立人および参考人村田ツネ各審問の結果ならびに本件記録添付の諸資料によれば、申立人の母ツネ(当六十四歳)は、小沢五十次(申立人の父)と結婚するに際し、当時既に同女の両親ならびに兄弟は亡く、その家名である「村田」の氏を称する者がいなかつたところから、将来両人の間に子をもうけた場合にはその内の誰かに、同女の家名「村田」を継がせることにつき同人の了承を得ていたのであるが、その後これが実現されることもなく現在に至つた。しかし同女としては上記家名が、ここで絶えてしまうことは到底忍び難かつたため、知り合いの戸籍事務担当者等にその方策を尋ねた末、上記小沢五十次と、一応形式的な離婚をした上、改めて、同女を戸籍筆頭者として婚姻届出をすることによつて上記家名を存続させようとしたが、これは夫五十次の同意を得るに至らなかつたが、更に同人と協議を重ねた結果、同人と一応形式的に離婚届出をした上、申立人を同女の氏に変更させることについて同人の承諾を得るに至つた。ところで申立人は出生来現在に至るまでの間、自己の氏名を明らかにすることが憚られるような場合に幾度か上記「村田」の氏を使用したことがある外、一貫して現在の氏を使用して来たもので、氏の変更により今後多少の不便は免れないが、母ツネの心情を察し、上記母の希望を入れて、氏変更を承諾した。そして上記申立人の父母らは昭和四十二年九月十一日協議離婚届出をしたが、これは飽くまで形式的なもので、その後も両名は従来の住居地に居住し、事実上の婚姻関係を継続しており、申立人の氏が、母の氏に変更されれば、改めて上記五十次を筆頭者とする婚姻届出をする予定であり又申立人としては母の意を受け将来にわたつてその家名を維持するため、近く妹が料理学校を卒業した後に、同女と養子縁組を結び、同女が結婚するに当つては、必ず同女を戸籍筆頭者とすることに同意するような相手を選ぶ意向であることが、それぞれ認められる。

そこで本件申立について判断するに、上記のような手段をとつてまで家名を存続しようとする申立人の母ツネの家名に対する執着およびこれを思う申立人の心情は十分考慮に価するのではあろうが、しかし又ひるがえつて考えて見ると、既に永年に亘つて何等の実体もない家名の存続のため以外に、氏変更の必要性あるいは、呼称上の便宜等は全く見られず又変更によつて一般社会の蒙る不利益の点を暫く措くとしても、上記申立人の今後の意向に照し、更に将来にわたつてもその家名を維持するため、現在申立人の予定する養子等に対し好ましくない結果を生ずる虞れがないではない等の事情を勘案すると本件申立は、これを許可することは相当でないと認めて却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 近藤道夫)

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